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未定

ハジマリ

オレがこの街に来たのは、数年前になる。両親が殺人事件に巻き込まれ、殺された。身内がいないオレは、バイトと両親の残した財産でここまでやってきた。


この街では、奇怪的な殺人が今年に入ってから多発している。

まず、一月中旬に起こった首消失死体。三月の変死体。今月に入ってからも何かが起こりそうな予感がしていた。
 しかし、学生の自分には高校の卒業以外に興味はなく。今日もアルバイト先で働いていた。
 オレは、九霧 駆馬(くぎり かるま)。今年で高校三年。特に有名でもない高校を特に悪くもない成績で通っている。
「これは何処に置いたら?」
「ん?ああ、それ?それは奥の棚に・・・」
 煙草を吹かしながら、一人の男が窓の外を眺めていた。彼は、バイト先の社長。といっても、社員が一人だけの会社でオレみたいなバイトを一人入れていることが多いらしい。      
俺の前も誰かがここで働いていたようだが、オレには関係のないことである。
「はぁ~、暇だねぇ。なんか面白いことでも起こらないかな?」
「さぁ?オレに訊かれましても。」
 社長は呆れた顔で「そうだよね~」と愚痴るとまた窓の外を眺め始めた。この頃思い始めたのだが、この会社は何をしているのだろう?オレは、毎日資料を棚に入れたり、出したりしているだけでこの会社の趣旨を知らない。まぁ、金を貰っているから文句は言えないのだが。
「う~ん、そうだ。カルマ君、少し買い物をお願いできるかな?」
「はぁ、何でしょうか?」
 社長のおつかいは、変なモノを買いに行かされることが多い。なんだっけ?ランプ?火を灯すやつ。ソレを先日買いに行かされた。近くにあった骨董品店でレプリカを買った。せめて、どこの店で買ってきてくれとでも言ってほしいものだ。
「そ~だね。今日は何を頼もうかな?」
「あ~無いのなら、やめておいて下さい。オレの時間という資源がもったいないです。」
「それもそうだね。今日はやめておくよ。」
 一息つく。今日は、怪しい本とかを買いに行かされるような気がしたからだ。そういうのは、二駅先にある気味の悪い本屋に行かなければならない。アソコは生気を抜かれるような気がするから好きにはなれない。
「カルマ君。今日は、もういいよ。後は明々後日にでもやっといてくれればいいから。」
「そうですか?じゃあ、今日は帰ります。」
 資料を棚に置いて、鞄に荷物をまとめる。時計を見るともう午後六時を過ぎていた。今日の夕食はコンビニ弁当になるだろう。
「それじゃあ、お先です。」
「気を付けてね~」
手をブラブラと振る社長に見送られて、オレは帰路につく。


 家に帰ると中に何故か先客がいた。
「トイシ。お前、どうやって入った?」
「へ?いや、どうやって、って二階の窓からですよ?」
 まただ、また鍵を閉め忘れて家を出たみたいだ。彼女は、宇野 樋矢(うの といし)。今年から、オレの通っている高校に入学してきた馬鹿だ。いや、頭はそれなりにいいのだが何を考えているのか高校のランクを五つほど落として入学した。まぁ、頭の出来がいい人間の考えていることは一般人のオレには理解が出来ないのも当たり前なのだろう。
「それより、先輩。見てください。これぞ、ツインポニーテール!
 ツインテールとポニーテールの二つの萌要素を合わせた最強の髪型ですよ!!」
「いや、知らないよ。あと、オレは萌要素とか理解できないから。」
 やはり、鬼才の頭脳は一般人のオレにはついていけそうにない。普通にポニーテールを上下に一つずつ作ったようにしか見えない。
「は、駄目ですね。これだから、一般人は。」
「あ~、もういいよ。それよりお前の家の夕飯、残ってないか?今日は、作り置きもしてないから、コンビニになんだよ。」
 コンビニより、人の手で作られた料理を選ぶのがオレである。それが他人の料理でもだ。
「そうですね。何か、持ってきましょうか?確か今日は、焼肉だったので野菜だけなら持って来てもいいですよ?」
「うわっ、オレはベジタリアンじゃねぇよ。持ってくるなら肉も持って来てくれよ。」
「却下です。肉の無い焼肉を食べていればいいのです。」
 あ、何か腹が立ってきた。いや、待て。野菜とはいえ飯だ。しかもタダだ。
「よし、その話乗った。」
「というか、私の家で食べたらいいじゃないですか?」
「あ、それもそうだな。」
 ということでオレは、急遽トイシの家に行くことになったのだ。




 第一話『タイトル未定1』


 昨日は、トイシの家で盛り上がってしまった。うぅ、頭が痛い。
「大丈夫ですか?カルマさん?」
「いや、全然。」
 オレのことを心配してくれる優しい後輩。彼の名前は、五十嵐 双次(いがらし そうじ)。オレの一つ下の後輩だ。
「また、馬鹿騒ぎをしていたのだろう?いつもの事だ。ソウジ、心配することはない。」
 そして、その隣にいるのがソウジの双子の兄、五十嵐 双一郎(いがらし そういちろう)だ。彼は、ソウジと反対で手厳しい性格である。愛称はソイチ。
「そう言っていられませんよ。カルマさんは、ただでさえ出席単位が足りないのにまた休んだら、退学ですよ。」
「だから、それはお前には関係のない話だろう?俺たちは、俺たち。カルマはカルマの話だ。」
 相変わらず、トゲのあることを言ってくれる。オレも後輩に恵まれているな。
「というか、私がさっきから背景になっているような気がするのですが?」
「ああ、気のせいだ。まぁ、お前が背景だと五月蝿くなくてかなり助かる。」
「な、なんですとー?」
 まぁ、ソイチも一理ある。現に今、五月蝿いし。
「そんな、酷いですよ。その、彼女の性格上仕方ないことで・・・・」
「うぅ、ソウジ先輩も私が五月蝿いことは否定しないのですね。」
 どうやら、ソウジが最後の一撃を喰らわせたらしく学校に着くまで、トイシを慰めることになってしまった。


 学校に着くと後輩達とは別れて自分の教室に向かった。同学年に友人がいない訳でもないのだが、オレは後輩といることが多かった。そのせいか、未だにクラスメイトの名前と顔が一致しないのである。
「よう、カルマ。」
「ああ、おはよう。え~と、鈴木?」
「いや、吉岡だ。ついでに鈴木はこのクラスにはいない。」
 このような感じだ。元々、名前を覚えるのは苦手なのだから毎年変わるクラスメイトの名前など覚えられるはずもないのだ。
 オレは、いつものように自分の席に座る。ふと、机の中に紅い封筒が入っているのに気がついた。ラブレター?な訳はないな。昔はやった不幸の手紙か?
 とにかく、オレはその封筒を開けた。中には、黒い紙に白い文字で
『部員募集 入部希望者は放課後201教室へ』
と書いている紙が一枚だけ。
「何部だ?こんな訳の分からないモノを書いたのは?」
 オレはその場で破ろうとしたが手が止まる。こんな回りくどいことをするのだ。少しは顔を拝借してやってもいい。
 そう思いオレは紙を胸ポケットにしまった。


 今日という一日がすぐに終わり、後輩達を先に返してオレは部室に向かった。
「ここか。」
 201教室。他の教室よりも面積があり、去年は、図書室に入りきらなかった本をここでまとめていた。しかし、ここに呼び出したということは今年から使い始めたのか、ただの悪戯のどちらかだ。
「失礼します。」ガラガラという音を立ててドアを開ける。
「ん、九霧 駆馬君かな?」
 そこには、オレの知らない教師がいた。いや、制服を着ていないだけでそんなにオレと歳は変わらないように見える。それに男か?それとも女か?性別もはっきりしないような美形の人物が椅子に座っている。
「ボクは狩石 亜坂(かりいし あさか)。アサカとでも呼んでくれればいい。」
「アンタがオレを呼んだのだな。アンタは学生か?教師か?」
「そんなモノはどうでもいい。でも、まぁ君が知りたいというのなら教えてあげるよ。一応、教師さ。ただし、今年から入ってきた新人でね。どうせだから部活動でもしようと思って君を誘ったのさ。」
 はた迷惑な奴だ。なぜ、オレを?というか、何でオレの名前を?
「うんうん、訊きたいことが山ほどあるだろうけどボクは部活のことしか考えていない。」
「残念だが、アンタみたいな教師と楽しく部活動なんて嫌気が差す。誘いは断らせてもらうぜ。」
 オレは、教室をでようとドアに手をかけた。
「九霧 卿四郎(きょうしろう)。九霧 九里(くり)守(す)。」
「なに?」
 オレは、振り返る。いや、こんな奴にその名前を言われたことに虫唾が走った。
「君の両親の名前だね。数年前の殺人事件の巻き沿いで変死体になった。」
「言うな。アンタが何を言おうが気にはしないが、オレの両親の名を軽々しく口にするな。お前のような奴とは違う偉大な人間だ。」
「そうだね。孤児である君を養子に迎え、莫大な財産を残してこの世を去った。死ぬ直前も彼らは、ホームレスの補助の最中だったそうだね。残念なことだ。」
「五月蝿い。貴様に何がわかる?未だに犯人が見つかっていない。オレのこの怒りは何処に向けることもできない。犯人さえ見つかったら俺がこの手で殺してやる。」
「ふふふ、そう熱くならなくても。ボクは君と喧嘩しに来たわけじゃない。そうだね。君の手伝いをしに来た。とでも言うべきかな?」
 アサカは、気持ちの悪い笑みを浮かべオレに紅い色の仮面を渡す。
「なんだ、これは?俺はこんなモノを集める趣味を持っていないし、こんなモノで遊ぶ歳でもない。アンタ、オレを馬鹿にしているだろ?」オレは、奴の胸倉を掴んでいた。
「いいえ、ボクはアナタの手伝いをしたいだけなのですから。それは、事件の証拠とでもいうべきモノです。アナタが持っていて損はしない代物なのですから。
アナタの復讐。白い仮面を狩る部活ですよ?」
「ちぃ。」
 オレは、そのまま奴を投げ飛ばした。オレの怒りは頂点に達していたのだ。
「もういい。貴様と遊んでいる時間がもったいない。」
 オレは、鞄を持ちそのままその場を立ち去った。




 その夜、仮面を持って帰ってきてしまったことにやっと気付いた。あの怒りの中、仮面だけは手に持っていたのだ。
「それにしてもコレが事件の証拠?何を言っているのだ?馬鹿馬鹿しい。」
 オレは、テーブルに仮面を置いて食事の支度をし始める。作り置きしておいた食事をレンジで暖める。
「部活とか言っておいてオレを馬鹿にしただけじゃないか。」
 あのヘラヘラした奴の顔を思い出しただけで虫唾が走る。気持ちの悪い笑い方だ。オレの怒りがまた戻ってこようとした時だった。レンジのチーンという音が我に戻してくれた。
 オレはそのまま食事を済まし、少しベッドに横になった。


 目が開くと深夜一時を少し過ぎたぐらいだった。無償に喉が渇き、キッチンに向かう。俺は、蛇口を捻り噴出した水を獣のように飲む。
 なぜだか、喉の渇きが癒せなかった。気持ちの悪い感触、冷たい感覚なのに身体が熱い。喉が潤っているのに乾いている。理解が不能だ。
 その時、オレの目に仮面が映る。
「ぐ、ごほ、ごほ、ごほ――――」
 咽て初めて自分が水を飲んだことを実感する。しかし、喉の渇きが癒せない。
 オレは何故か、仮面を手にしていた。そして、その仮面を自らの顔に・・・・・




 この街は治安がいいとは言えない。殺人、恐喝、この二つが多く今日も警官たちが頭を悩ませていた。
「石井さん、今日は上がります。」
「おう、そうか。気をつけろよ。」
 何気ない平和な日常だった。しかし、一本の電話が全てをひっくり返す。
「はい、石井だ。あ?わかった。おい、野口。もう少し付き合え、殺人事件だ。」
「またですか?この頃、多いですね。」
「いや、今回は特殊なケースだ。犯人がまだ殺人をしている最中らしい。俺らは応援だ。防弾やっとけ。」
「は、はい。」
 防弾チョッキ。その言葉が新米の警官を緊張させる。まさか、例の暴力団だろうか?そんな事が彼の頭をよぎった。
 しかし、現場に着いた時にその予想がまったく違ったことに少し安心したのである。いや、もしかしたら予想が当たっていたほうが彼を安心させたのかもしれない。
「石井さん、アレは何ですか?」
「知るかよ。俺もあんなの見たのは初めてだ。」
 先輩警官の焦りが彼を安心から不安に突き動かした。いや、それよりも目の前の現状が彼を不安にしてならなかったのだ。
 自分が絶対に使うことはないだろうと思っていた拳銃を手に持って物陰に隠れていた。
 ガリガリと地面を擦れる音が自分の耳に入ってくる。そして、その音がピタリと止まる。そして、バキバキという音を立てながら自分たちが乗ってきたパトカーが真っ二つに切断されたのである。
 ガソリンが漏れ出し引火。そして、爆発の連鎖が起きる。しかし、その爆発音が鳴り止むとまた、ガリガリと地面を擦れる音が聞こえ始める。
「クソっ、無線に誰も応答しねぇ。殺られたか?」
 石井が焦っている。何事にも冷静に対応をして自分の見本となった男が今、自分の目の前で焦っているのである。
「野口。いいか?俺が先に出る。後ろからついてこい。両手を撃てば、アレは使えなくなる。そこで両脚を撃てば、こっちの勝ちだ。」
「りょ、了解。」
 石井が飛び出す。野口が彼の後に続いた。
「もらったぁ。」
 二発の銃声が鳴る。しかし、それをも消し去る風音。強風が野口を吹き飛ばした。頭を押えながら転がり、二メートル飛ばされたところで止まった。
「石井さん。」
顔を上げる。しかし、そこには自分の誇れる先輩はいなかった。あったのは肉片。一気に潰された肉の塊しかなかった。
「うっ――――」その場に嘔吐する。
 しかし、それは待ってくれなかった。また、ガリガリと地面を擦りながらコチラに向かってきた。そして、自分の目の前に来るとソレは止まった。
「た、たすけ―――――」
「駄目だ。」
 振り上げられた巨大すぎる剣。いや、剣というより鉄で出来た塊というべきだろう。その塊にただ、刃がつけられているだけにしか見えない。
「ひぃ、」
 野口の身体がその場から吹き飛ぶ。いや、この世から吹き飛んだ。地面にめり込む剣。アスファルトにヒビを入れてなお、沈んでいく。
 その剣を引きずりながら紅い仮面の男が街へと進んでいった。




 いつの間にか自分の家の近くにまで来ていた。喉が潤う。そう、殺人という行為は喉が潤うのである。
「そこの男、手を挙げて地面に伏せろ。お前は包囲されている。繰り返す―――」
 しかし、人間というのは五月蝿いな。こんなにも五月蝿かったのか?
「黙れ、人間。」
 振り上げる剣。ただ、重さのままソレを振り下ろす。モノというモノを潰す。
「退避。退避――」
 逃げる人間。だが、遅すぎるこのリーチで届かないはずがないだろう?
「ひ、ひぃ。」
 振り下ろされる剣。しかし、そこにはイレギュラーが現れる。
 振り下ろした剣に何かがぶつかる。人間の真横の地面に剣がめり込む。もちろん人間を潰せなかった。唖然としていた男は、我に返ると一目散に逃げて言った。そうだ。オレの行動を妨げる存在が現れたのだ。
「誰だ?」
 振り返るとそこには少女がいた。オレの記憶が正しければ・・・・いや、誰だ?思い出せない。知っている。それなのに思い出せない。
「私は、トイシ。宇野 樋矢だ。」
「と・・・イ・・シ?」
 知っている。知っているはずだ。なぜ、思い出せない?オレは何故彼女のことを思い出せないでいる?
「いきますよ~!」
 オレが悩んでいる時に彼女は待ってはくれなかった。構える。そうだ。アイツは昔から野球をやっているって言っていた。
 そのフォームは、可憐でしなやかだった。
「アンダースロー?」
 その手からは、ボールではなく掌サイズの小石が投げ出される。時速およそ140キロ。
だが、それがどうした。たかが小石だ。オレの手には何がある?巨大な鉄の塊だぞ?そこらの鉄バットのどよりもデカイ塊。
 オレは、剣で小石をなぎ払った。
「ふん、これで終わりか?」
「まさか、そんなはずがあるはずがあるわけないでしょう。」
 もう一球振りかぶる。しかし、今度は少し違った。彼女の小石を持っている手がさっきよりも後ろに振りかぶっているのだ。
「いきますよ?」
 投げられた小石。彼女の手から放たれた弾丸は、カーブを描く。今度は、150キロ弱といったところか?
しかし、こちらに届く前にカーブして壁に当たって落ちる。これは予想すれば誰にだって分かる。
 オレの予想通り、コチラに来る前に予想以上の力が掛かりすぎてオレの手前で曲がってしまっている。オレは、奴が新たに投げる前に潰そうと構える。
 しかし、結果は導き出した結果と違った答えを出した。
「なっ!」
 オレの手前で曲がった小石が更に曲がったのである。その角度は九十度。案の定、オレの右目を直撃する。
「ちぃ、」
 一歩後退する。そんな事があっていいのか?転がっている石を見る。血?オレのか?いや、違う。アイツのだ。通常よりもさらに回転を掛けているからあんな動きをしている。
「まったく、無茶なことを・・・・」
 あれ?オレは何をしている?なんでトイシと?
「まだまだ、いきますよ?」
「ちぃっ!」
 あの馬鹿、少しは待てよ。間を知れよ。馬鹿が。
 オレは、自分の持っていた剣で真横の壁を突き破る。その奥の壁も、そのまた奥の壁も。あの馬鹿が間を待たないならオレが戦う必要もない。オレは直進をし続ける。
 そして、いつの間にか記憶が途切れる。




 昨日は、変な夢を見た。自分がベッドから起きて今朝初めての感想がそれだ。 
「はぁ、疲れているのかな?」
 そういって、ベッドから降りるとテレビをつける。いつものように朝食時に見ているワイドショーだ。
 しかし、今日はいつもと様子が違っていた。
『それでは、昨夜の事件の続報をお送りします。』
 あれ?チャンネルを間違えたかな?もう一度、リモコンでいつものチャンネルのボタンを押す。しかし、今映っているチャンネルにしかならない。
「なんだ?また、テロか何か?」
 だが、その内容は思っていたのとは違っていた。
「・・・で、昨晩大規模な殺人事件が起こりました。犯人は未だ逃走中。街全体を今日一日閉鎖し、自衛隊で犯人を捜査するとのことです。」
 自衛隊まで?いや、それよりもさっきコノ街の名前が出なかったか?
「まさか・・・・な。」
「いや、そのまさかですよ。」
「うおっ!」
 隣にいつの間にかトイシが座っていた。家の中に入ってくるのはいいが気配を消す、のはやめて欲しい。
「それより、遅刻じゃないか?」
「今日は休校らしいです。というか、外出禁止令がこの街にでました。今、昨日の事件の犯人を捜索中らしいです。」
 昨日の事件。何故だろう?背中に嫌な汗が流れる。
「その事件って?」
「今、テレビでやっていた通りです。一人の男が数人の警官を殺害したらしいです。ついでに器物損害らしいですよ。二階から見たらわかります。」
「二階?」
 オレは、言われた通り二階に上がりベランダから外を見る。それは、いつもの街とは様子が違っていた。町には自衛隊が歩いていて、家が数件崩壊寸前の状態になっていた。地面は、所々何かがめり込んでアスファルトにヒビが入っていた。
「えーと、いったい何が?」
「・・・・もしかして、先輩昨日ぐっすり寝てたんですか?」
「もちろん。」
 胸を張ってオレはそう言った。彼女は、何故かタメ息をついて呆れている。
「もしかして、地震とか?」
「だから、さっきから言っているじゃないですか。一人の男がコレをやったんですよ。」
 ついに後輩も頭が変になったようだ。人間にこんな馬鹿げたことが出来るはずがない。というか、これは人間じゃないだろう?そう、どこかの怪獣映画さながらの光景に見える。
「大規模な怪獣映画の撮影?」
「寝ぼけてないで顔を洗ってきてくださいよ~。」
 どうやら、現実のことらしい。オレは、よくこんな状況で寝ていられたものだ。自分に感心してしまう。
「はぁ~先輩が少し羨ましいのですよ。私なんか昨日の深夜に叩き起こされて、非難していたんですから。ふぁ~、まだ眠いですよ。」
 そういって口を広げながら欠伸をする。あれ?なんでコイツの家が非難していて俺が非難していないのだろう?
「なぁ、トイシ。非難するほど近くにいたのか?そのえーと怪獣?」
「はぁ、その人のことを庇う気はないんですけど、怪獣はないと思いますよ?私が昨日見た時は、私の家の五つ隣の石井さんのところまで来ていたみたいですよ。」
「は?今、見たって言わなかったか?」
「はい、言いましたよ。というより警察が逃げ出していたので私が石を投げて追い払いました。意外と弱かったですよ。」
 ・・・・・コイツ何を言っているんだ?もしかして、ヤバイ事件に足突っ込んでないか?今、石投げて追い払ったとか言っていたよな?それが本当ならこの惨事は普通に防げるだろ。
「あ、痛っ!なんで頭叩きますか?」
「馬鹿みたいなことを言っているからだよ。小石で追い払えたら、警察がでなくてもいいだろ。
 もういい、朝飯作ってくれオレはシャワーを浴びてくる。」
「え、そんな、朝から先輩の濡れ姿を見られるなんて・・・・私、ちょっとドキドキしてきましたよ!!」
 オレが全力で殴ったのは言うまでもない。




 第二話『タイトル未定2』


 あの事件から数日が過ぎた。春先でいきなり大きな事件が起こったが、街は落ち着きを戻していた。
「ねぇ、カルマさん。今日のお昼は一緒に食べませんか?」
「・・・・女でもないのにそういう事を口にするな。まさか、そっちの趣味を持っているのか?なら、全力で断る!」
「馬鹿か!俺の弟がそんな趣味に走るわけがないだろう。俺たちの妹が弁当を作り過ぎたから皆に別けようと思っていたんだよ。」
 なるほど、そういう事か。しかし、こいつ等に妹がいたなんて知らないぞ。
「はいはいは~い。」
 なぜか、手をブンブン振り回す女。え~と、なんだろう?
「・・・・はい、トイシ君。」
「うぃっす。五十嵐家は、六人兄弟らしいです。上に二人の兄姉、下に妹二人らしです。」
へぇ~、それも初耳だ。オレは、一人っ子だからそういうのはわからないけど兄弟って少し憧れる。
「ははは、カルマさん。そんなにいいものじゃないですよ?人間が増えれば増えるほど、意見の食い違いが出てきますから。そういった面では、一人の方がいいかもしれません。」
なるほど、そういうのでは確かに一人の方が楽かもしれない。でも、血の繋がった兄弟というのは憧れる。オレも孤児院にいた時には、兄弟と呼べる人間たちがいた。しかし、血が繋がっているわけでもなく。他人事で済まされる時もあった。だから、血の繋がっているというのは少し羨ましかった。
「まぁ、一人の方が確かに楽かもしれないな。」
 オレはそういって、後輩たちを見る。オレには、仲間がいる。だから、オレには兄弟という存在はいらないのだろう。オレには、それ以上のモノがそこにあるのだから。


 昼休みは、後輩たちに誘われて全て潰してしまった。おかげで昼後にある授業の宿題を忘れて、放課後に課題を出されてしまった。仕方なく、放課後の時間を使って課題を全て終わらせることになった。
「はぁ、終わった。」
 時計を見ると六時半を過ぎていた。はぁ、今日もコンビニの弁当のようだ。
「ん?」
 オレの机からポロリと一枚の封筒が落ちる。まさか、ラブレター?な訳ないな。まさか、昔はやった不幸の手紙?
 とにかく、オレはその封筒を開けた。中には、黒い紙。
「・・・・あれ?」
 デジャブーという奴なのだろうか?オレには、昔こんなことをした記憶がある。そう、これには部活動募集の記事が書いていて。
「・・・・そうだ、思い出した。」
 オレは、急いで教室を出た。廊下を走り、あの教室に向かう。紅い仮面を貰った教室に。そうだ、あの仮面をつけてからオレが変になって・・・・。
 ドアを思い切り開ける。
「アサカ!」
 大声を出して、奴に飛び掛ろうとした。しかし、そこにはアサカの姿はなかった。
「♪~」
 代わりに白銀の長い髪に銀色の瞳の少女がそこに座って本を読んでいた。しかも、何故か鼻歌混じりで楽しそうに読んでいる。制服を着ているのからココの生徒だと思うのだが、こんな生徒はいたか?
「おい、アンタ。」オレが呼んでもソイツは反応しなかった。
 集中しているのか?それとも耳が聞こえないのか?どっちでもいい。ようは、肩を叩いてしまえばいいのだから。オレは、彼女の肩を叩く。
 しかし、反応がない。
「・・・・無視しているのか?」
 なら、オレは本を取り上げる。彼女は、驚いた顔をしてオレのほうに振り向いた。
「・・・・アナタ、誰?」
「オレは、九霧 駆馬。ここに居た。狩石 亜坂という男を捜している。」
「そう、彼ならいないわよ。さぁ、本を返しなさい。」
 なんだ、コノ人は本にしか興味がないのか?というより、アサカを知っている?
「なぁ、アンタの名前は?」
「知らない男に教えるほど馬鹿じゃないのよ。早く、本を返してよ。」
 身長が妙に小さい少女はぴょんぴょんと飛びはねながらオレの手にしている本を取ろうとしている。身長の差が歴然としているから取れるはずもないのだが。
「いい加減にしなさいよ!」
「ごふっ!」
 彼女の蹴りがオレの鳩尾にめり込む。うぅ、痛い。
「・・・悪かった。本を返すからアイツがどこにいったか教えてくれ。アイツに仮面のことを訊かなきゃならないんだ。」
「仮面?アナタ、何色の仮面を持っているの?」
 少女の顔が変わる。さっきまで興味がないような顔をしていたのに今は真剣な顔でこちらを見ている。
「え・・・と、赤色の仮面。」
「・・・・そう、アナタが今回の箒乗りなの。」
 なに?箒、乗り?オレはそんな間抜けな格好はしていないぞ?
「まぁ、座って。さっきは悪かったわ。アタシは、カメリア。カメリア・フォン・アルベルト。」
 カメリア。ツバキという意味か。
「なるほどね。アナタがこの街を壊した張本人という訳ね。」
「いや、待て。アレは・・・ほら、不可抗力みたいなもので。」
「いいわ。全部、理解できているつもりよ。あの仮面は、アナタの欲望に働いただけ。アナタが押さえ込んでいることを全てやったに過ぎないのよ。
 でもね。アナタがそうしている暇はないわ。この世界は破滅し始めている。」
「は?破滅?」
 オレは、気の抜けた返事をした。だって、そうだろう?いきなり、世界の平和が危険なのですとか言われて納得するのはテレビの特撮ぐらいだ。
「まぁ、無理もないわ。誰もがそう言って、最初は疑るものよ。最近の人っていうのは、どうして自分が目にしたことしか信じないのかしら?昔は、すぐに信じてくれたしアタシのいうことも忠実にきいてくれたのに。」
「それは、人間じゃなくて。ペットの類だろ。犬とか。」
「ふふふ、確かにそうね?そんな人間もいたわ。犬と呼ばれても誇りを持っていた。でも、今はいない。だから、こうして話をしているのよ。別にアナタに頷いて欲しいわけじゃない。その仮面を渡してくれれば、アナタは無関係になる。その代わり他の人間がアナタの代理として世界の崩壊を止めてもらうだけ。」
 世界の崩壊?まだ、理解できない。
「なぁ、話してくれないか?アサカのこと、仮面のことを。」
「・・・そうね。聞いてからでも遅くはないわ。そんなに早く世界は崩壊しない。
 この世界というのは、崩壊と再生を繰り返しているの。その原因は、四つ。
 まず、アタシ。魔女カメリアの存在。アタシの存在でこの世界のバランスが崩れていく。アタシの生が世界の崩壊の鍵ともなる訳ね。
 次にアグニ・ガーネット。紅い瞳の魔女。それがアナタの今持っている仮面よ。彼女は、世界の崩壊を望む者。
 そして、グロリオーサ。彼女は、アタシに敵対しコノ世界を自分のモノにしようとしている魔女。アグニの崩壊を止めるために協力はしてくれるけど彼女もまた、世界の崩壊を生む源なの。今は、アサカという男になっているらしいわね。
 そして、最後の原因はコノ世界が自ら崩壊を望んでいること。これが一番の原因といってもいいかもしれない。この世界自体が崩壊と再生を繰り返そうとしている。
 この四つを止めるのがアタシの仕事。物語を終わらせないで書き続けさせる。ペンのインクが無くなれば新しいインクで書き続けさせるそれがアタシの存在なの。
 理解できたかしら?」
 ・・・・感想は、さっぱりだ。つまりは、オレにどうしろというのだろう?
「アナタは、アグニの仮面でこの世界の崩壊を止めて欲しいの。」
「止めるって、どういう・・・」
 その時だった。窓ガラスを突き破り、人影が突っ込んできた。オレは、蹴り飛ばされ床に転がった。
「く、なんだよ。」
 オレが顔を上げるとそこには、白い仮面を被った人間が立っていた。
「なんだ、コイツは?」
「これが世界の望んだ崩壊の形。白い仮面をつけている使い魔。こいつがコノ街での変死事件の犯人。仮面に魅入られた者よ。」
 仮面に魅入られた者?不気味に首を捻らせて笑っている。冗談じゃない。こんな訳の分からない事件に関わってたまるかよ。
「おい、アンタ。コイツをどうにかしてくれよ。魔女なのだろ?」
「無理よ。アタシは、この世界を見守る者。魔女と呼ばれているだけでこの物語の中じゃ魔法なんてものないのよ。」
「何を言っている?意味がわからないぞ?」
「つまりは魔法が使えないのよ。」
 くそ、本当に使えないな。
 そう言っている間にも奴は待ってはくれなかった。細長い腕を振る。手にはナイフが握られていた。
「ちぃ、」
 身体を捻らせて、ナイフの軌道上から避ける。しかし、振り下ろした手を捻り振り上げてくる。
「くっ、」身体を後ろに退かせて、奴との間をとる。
 頬を掠めて、ナイフが上へと飛び上がった。オレはその隙に奴の横腹に蹴りを一発いれる。
「くぎょ、」なんて、変な声で叫んで転がる男。
 くそ、当たったのはいいがこんな滅茶苦茶なこと、もう一度通用するとは思えない。どうすれば?そんな事を考えている暇はない。
「また?」
 グルリと起き上がり、ナイフを振り回す男。くそ、どうすればいいんだ?その時だった。男に大きな本が当たる。首が傾く。
「こっちよ。」
 その時カメリアが叫んだ。本を投げて、相手を挑発している。
「あの馬鹿。」
もちろん、仮面の男が挑発に乗るのは当たり前だった。ナイフを持って走る男。
「あれ、もしかしてアタシ、今危険じゃ?」
 今頃気付いたのか、慌てふためいている。間に合うか?俺も、奴と同じタイミングで走る。
 奴がナイフを構え、振りかぶる。そして、投げた。
「うおおおおおぉぉぉぉ!」
 オレは、彼女に向かって飛び込んだ。彼女を抱きかかえ、ナイフの軌道から避ける。だが、現実はそうはいかなかった。
 オレの右脚に激痛が走る。どうやら、ナイフが刺さったようだ。
「クソ、こんな時に。」
 ドロドロと流れ出す赤黒い液体。歩けることすら出来ない。オレは、這いずりながらも男から逃げた。カメリアが肩を貸してくれるが早くは逃げられない。
 そんなオレたちを見ながら、残酷な子供が虫を殺すように笑って男は歩いてくる。
「く、くくくくく・・・・」
 その笑い声がオレの耳に響いてくる。こんな所で死ぬのか?嫌だ。死にたくない。
『仮面を使うのです。』
 一瞬。少女の声がオレの脳に響く。幻聴?いや、どうでもいい。オレは、いつの間にか手に持っている仮面を顔に着けた。


 ぐらりと回る世界。三百六十度回転し、オレはそこに立っていた。常識?ありえない?そんなことは知らない。オレが
「ひぃ」
 白い仮面の男が小さな悲鳴をあげる。それはそうだ。自分の前にいた羽のもげた蝶が化け物に豹変したのだから。
「カメリア。オレは、お前に協力する。これは世界のためじゃない。オレはそんなに善い人間じゃない。自分が死ぬのが怖いだけだ。だから、戦う。この力で壁となる者を殺す。」
「そう、おめでとう。アナタは、この世界を救う者。箒乗りに任命されたわ。」
 箒乗り。そういう意味だったのか。まぁ、今はどうでもいい。今は、目の前の敵を殺すのみだ。
「行くぞ。このヘンタイ殺人犯が。」
 オレは、助走をつけ飛ぶ。そして、そのまま仮面の男を鉄の塊で潰す。ブチブチという音と血が噴出す。床に減り込んだ鉄の塊。その重さに耐え切れなかった男は、悲鳴をあげる前に潰された。
「ふん、案外もろいな。オレみたいに少しはまともかと思ったのに。」
 オレは、愚痴り振り替える。右脚の痛みを抑えながら、彼女に近寄った。
「大丈夫か?カメリア。」
「ええ、怪我はないわ。でも、アナタが。」
「ああ、そうだな・・・・」
 ぐらりと景色が斜めになる。そして、そのまま意識がなくなった。




 気付いた時にはベッドで寝かされていた。
「痛ってぇ~」
 右脚の痛みがオレを叩き起こしてくれる。最悪の目覚め方だ。
「先輩~。具合はどうですか?」
 なぜか隣にトイシが座っていた。
「あ~、最悪だ。こんな悪い目覚めは、始めてだ。」
「はぁ、災難だったですねぇ。強盗が校舎に入ってきてただなんて。もしかして、今日は仏滅でしたか?」
 冗談になってないような気がする。それにしてもあんなことがあったのに以外と冷静な対応をしているオレなのである。
「そういえば、小さい女の子を見なかったか?」
「へ?私ですか?」
「いや、お前より小さい子だ。」
「いや、見てないですけど。は、まさか先輩。あれですか?ロリコンとかいうのですか?
――――って痛っ!殴らなくてもいいじゃないですか。冗談ですよ。」
 お前の冗談は時たま、冗談で終わらない時があるんだよ。そう思いつつもう一発殴っておく。


 その日は仕方なく、松葉杖を借りて帰宅した。次の日、登校しているとこの騒ぎだ。
「か、カルマさん。どうしたんですか?交通事故か何かですか?」
「いや、カルマのことだ。階段で転げ落ちただけだろう。あんまり、関わるなよ。馬鹿になる。」
 なぜか、冷たい後輩がいるのはどういうことなのだろうか?
「兄さん。カルマさんは、そこまで馬鹿ではないですよ。その・・・少し、ドジなところはありますが。」
 うぅ、相変わらずグサリと胸に突き刺さるよ。この二人のコンボは、普通じゃない。
「お前たち、少しは労わる気持ちというのはないのか?こう、先輩。荷物お持ちいたしましょうか?みたい、なさ?」
「ないですね。」
「ないな。」
 クソ、二人同時にかよ!?怪我しているのに酷すぎないか?この後輩達。本当に痛いんだからな?コレは。
『箒乗りさん』
 その時だった。どこかでオレを呼ぶ声が聞こえた。
「・・・・悪いけど、先に行ってくれないか?オレ、忘れ物したみたいだ。」
「え、今からですか?間に合いませんよ?」
「そうだぞ。その足じゃ、絶対に無理だ。」
「それが昨日の放課後に提出しなくちゃいけない宿題を家でしようとしてさ。そのまま、家に置いてきたみたいでさ。今日、提出しなきゃ居残りじゃすまされないみたいなんだよ。」
 適等な嘘をついて後輩たちを先に行かせる。オレは、登校通路をそれた路地裏に向かった。自然と松葉杖を使わなくても歩けていた。
「あら、早かったのね。箒乗りさん?」
「アンタだったか。カメリア。オレに何のようだ?」
 そこには、カメリアの姿があった。もう季節はずれの黒いコートを制服の上から着ていた。今年の春は、夏並の気温まで上がり。コレは完全に地球温暖化だなと、世間では騒がれているがエアコンや車を使わない人間は増えないのである。
 今日もかなり暑く、ハンカチで額を拭わなければいけないぐらいだ。その気温の中でコートを着ているのは、完全な場違いというものである。しかも、身長が元々小さいからサイズの合っていないブカブカのモノを着ていた。似合っていないというか、笑ってしまう。
「アタシの協力をしてくれるのでしょ?だったら、殺す相手の顔ぐらい覚えておくべきよ。違う?」
「いや、その通りだ。今のオレは何をすればいいのか分からないからな。」
 カメリアは、コートの胸ポケットから、写真を二枚出す。これが殺す相手らしい。しかし、オレは目を疑う。一人は、昨日放課後に宿題を出された教師。もう一人は、オレのクラスメイトだ。
「アナタのクラスメイトの河合君。昨日、アナタが殺した相手よ。もう一人は、数学教師の伊熊 一夫(いぐま かずお)よ。アナタには、これを殺してもらうわ。実行は、今日の放課後。」
「・・・・わかった。」
 オレは、無言で来た方向を戻る。こんな時でも自分の単位が心配なのは少し苦笑してしまう。
 まぁ、学校を休んでしまうと疑われる場合がある。オレが犯行を起こしたということを誰もが知らずに終わる。これがオレの計画(プラン)だ。




 放課後、伊熊を屋上へ呼び出した。初めて屋上へ呼び出した相手が女性でなかったことは少しショックだったが。
 まぁ、仕方ないだろう。ここが一番生徒に気付かれにくいし、部活動の生徒も校舎の中には残っていない。教職員も隣の校舎にある職員室で会議をしているらしい。被害の面を考えてもここが一番だろう。
「なんだ、九霧。俺に話って?お前の留年は俺には関係の無い話だぞ。」
「ああ、そんな話じゃない。アンタが持っている仮面をコッチに渡してもらいたい。」
「な、なんのことだ?仮面って?」
 オレは、手に持っている仮面を自分の顔に押し当てる。血管が仮面から流れ、初めて動くように仮面が生き返る。それは、皮膚にピタリとくっつき剥がれ様としない。まさに、皮膚そのものになったようだ。
「そ、そうか。お前が河合を殺したのか?」
「そうだ。オレが殺した。そして、殺す。」
 踏み込み、一瞬にして奴の目の前まで距離を縮める。そして、拳を一発、顔にお見舞いする。伊熊のかけていた眼鏡が吹き飛ぶ。続けて、蹴りを鳩尾にぶち込む。伊熊は、嘔吐しながらその場に蹲る。
「貴様も同じか?オレを楽しませることなく死ぬ。脆い人間だな。」
「ふ、ふふ、それはどうかな?」
 奴が顔を上げた瞬間。オレの予想は外れた。蹲っている間に仮面を着けていたのである。奴の口から約二メートルの槍が突き出す。オレは、顔を反らしながら後退する。
「な、なんだよ?ソレは?」
「何って槍だよ。見れば分かるだろ?いや、理解できないか。お前は、仮面を使ってそんなに時間が経っていない。だから、使い方が理解できていないのだろう?」
 ニヤリと口元を笑わせる伊熊。なるほど、洞察力はそれ相当のものを持っているらしい。
「しかし、お前の口から出た槍はオレの手元にある。」
そう、奴から放たれた槍をかわし、それを掴んでいた。こんなモノ、トイシの150キロ弱の剛速球に比べたら楽なものだ。
「く、くくく・・・」
 しかし、奴は笑った。肩を震わせてまるで笑いを抑えているように笑ったのだ。
「何が可笑しい?それとも狂(おか)しくなったか?」
「いやいや、俺はつねに正しい。知っているだろ?俺がお前の授業を教えているのだから。無知はお前で俺は正常だとも・・・」
 グチョリと粘っこい音を立てて口を開く。その口の大きさはどんどん大きくなって、顎が外れる。そして、その奥から赤い色の舌が出てくる。その舌が口から切り離され、コチラに飛んでくる。いや、舌などではない。赤い色の槍だ。
「また?」
 しかし、いくら槍を放とうがコノ距離では当たらない。オレは、左に身体を動かす。
「え?」
 だが、予想は外れていた。奴は、二発目の槍を発射していた。オレは、馬鹿みたいに横飛びしたまま直撃線上に立っている。
 そして、そのままオレに向かって槍が突き刺さる。走る痛みと噴出す血。オレの目の前が白くなっていく。




 不満な顔をして、かつて魔女だった男はタメ息をついた。
「まったく、今回も面白くない世界をつくったものだね。」
「そう?アタシは、好きよ。コノ世界。アナタがまた壊さないようにアタシは防衛するのに没頭できるもの。前の世界なんて、アグニに燃やされたし。今度は、そんな心配もないわ。」
 白い髪の魔女が笑った。本を読んで微笑んでいるのはよく見るがこうして笑っているのは初めてだった。
「あら、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。それより、どうなんだい?今回の箒乗りは?」
「ふふふ、面白い子よ?前の箒乗りの孫に当たる男の子なの。でも、アナタが彼にアグニの魂を与えるなんて、理解ができないわ。」
「理解・・・か。いや、それはボクたちがすることじゃないよ。昔から彼女が理解して行動している。最初の世界だって、ボクの意思を無視して物語の主人公になった。そして、君の物語(せかい)を壊した。君も理解できているのでは?ボクたちを超える力をアグニが持っている。だから、それを恐れてボクたちは箒乗りと呼んでいる。」
 昔のことを思い出す。いつもそうだった。魔女でもなかった一人の少女がアグニとなって自分たちの世界で魔女となり、壊してくれた。
「それもコレもあの世界から始まった。君の下で働いていた少女のせいだよ。」
「あら、それを殺そうとしたアナタが彼女の力を覚醒させたのでしょ?
 それに今回は、自分の手にしていたのに何故壊さなかったの?いいえ、アレはアナタじゃなかった。アナタと逆の存在ね。最初は、アナタがこの物語に興味を持っていないのかと思っていたわ。」
「物語にはいつも興味はない。アグニの力を使って物語を終わらせようとは思っていないだけさ。アノ男が勝手にボクの身体を使うなんてね。この世界では、見なかったのにまさかボクの身体を使うなんて思わなかったよ。」
 まぁ、いい。今回の箒乗りが何処までやってくれるか見ものだよ。」
 口角を三日月のように広げながら黒い魔女は笑った。




 鮮血の光景。素晴らしい。素晴らしい光景だった。オレの血が吹き出ている。頭の中は鮮明になっていく。思考がクールダウンし、いくつもの思考が飛び交う頭の中に敵を殺すというワードオンリーになる。
「仮面の使い方?しっているさ。それは血だよ。自分の血によっていくらでも力を使える。それが仮面の力。」
 オレの手には、いつの間にか巨大な鉄の塊が握られていた。その色は、どんどん紅く染まっていく。そう、オレの血だ。
「な、なんでお前はそれを知っていて使わなかった?」
「は、言うだろ?一撃必殺は最後ってことだよ。」
 ガリガリと引きずる音、時々散る火花。伊熊の恐怖が増していく。口から吐き出される槍。しかし、それをことごとく踏み潰す巨大な塊。何度も何度も槍を吐き出す。だが、目の前にいる紅い仮面の男はそれを全て無駄に変えていく。
「く、くそぉ。どうしてだ?九霧?」
「どうして?オレが正義だからさ。」
「せ、正義?人を殺すのが正義なのか?」
 カルマは、笑った。人を殺してなお正義という問いかけに笑って答えた。
「殺すのが正義だ。正義という名の剣を持ってしても悪を殺すことが出来なかった時。手を悪に染めてでも悪を殺す。いや、悪に殺意を持っている時点でそれは悪に手を染めているのに変わらない。」
「ち、畜生~」
 伊熊は、カエルのように飛び跳ね。5メートルほど後ろに下がる。まだ、槍を撃ち出そうと言うのだ。
 しかし、今回は様子が違った。ゴボゴボと吐血し始める。なるほど、仮面の力を使うのか。血は力。だから大量の血液を使えば、それだけ大きな力が使えるということだ。
 伊熊の喉が大きく膨らむとさっきよりも大きく口を開く。もはや、顎が外れるなどという範囲ではない。下顎が完全に壊れていた。
 太さ、40センチの紅い色の槍が放たれる。しかし、それは一本ではなく。十三本に別れ、それぞれが蛇足するようにコチラに向かってくる。
「・・・・それがどうした?」
 オレは、鉄の塊を野球のバットのように構える。片足を上げ、タイミングよくフルスイングする。ベキベキと音を立てながら九本の槍が潰されていく。
そして、残りの槍の一本を手で持ち。コチラに向かってくる残りにぶつける。
 あら不思議。いつの間にか十三本の槍が地面に落ちているではありませんか?これは、しょぼい手品よりも笑える。
「く、くそぉぉぉぉぉぉ。」
 もう一回、伊熊が放とうと吐血し始めた。だが、
「へ、あ、あれ?目が、目が見えないぃ?」
 伊熊の目の前が真っ白になって目の前のビジョンが見えなくなっていた。
「く、九霧ぃ。何をした?やめなさい!」
「あはははは、オレは何もしてないよ。それは、お前が馬鹿なだけだ。」
 カルマは、高らかに笑った。その笑いが伊熊の恐怖をさらに増大させる。目の見えないということがコレほど怖いとは想像していなかった。
「ど、どういうことなんだ?」
「まさか、こんな常識を知らないなんて驚きだよ。アンタは、仮面の力を使いすぎている。血が身体から抜けていくことによって血圧が下がり、失明になろうとしているだけだよ。」
 そう、生きているということで血液というのがどれ程重要か。この男はその常識を理解できていなかった。それがこの勝負の敗因だった。
 ガリガリガリ――――――。
響く音、伊熊にはそれだけしか見えていなかった。


 次の日、トイシのついでにソイチとソウジがついてきた。
「それでですね?アタシが言ってやったんですよ。あ、アンタのためじゃないんだからね?
 て、言ったら先輩に殴られたのですよ~」
「それは、痛かったですね~」
 なぜか、泣いているトイシをソウジが慰めているというか人の家の中でしないで欲しい。
「別にいいじゃないか?どうせ、アンタも今日は暇なんだろ?」
「いや、そうだけど。何?嫌がらせですか?」
 昨日の事件で今日も休校になっていた。コノ街は、休校が多いな。こんなので卒業できるのだろうか?あれ、本当に心配になってきた。
「それにしても驚きましたよね?まさか、アノ伊熊が殺されるなんて。」
「でも、学校側は好都合だったみたいですね。僕が聞いた話だけでも五人の生徒が彼の被害にあっていたらしいですから。」
 伊熊は、オレが入学する前から女子生徒にセクハラ行為をしていたらしく、生徒たちのなかではコノ噂を知らない生徒がいない程である。学校側は、噂と証拠が無いことで動けずにいたところ昨日の事件だ。
 大きな爆発音のような音を聞いた生徒と教師たちが屋上に集まると地面に埋まっていた伊熊を見つけたということだ。オレは、その生徒の中に紛れて帰宅した。今朝に警察が来たが大した質問もせずに返っていた。その後にトイシたちが来たのだ。
「それで、なんで来たんだ?」
「いや、別に理由はない。暇だったからか?」
「そうですね。暇でしたから。」
 嫌な後輩たちだ。オレはこうして、後輩たちに休日を邪魔されるのであった。




 一人の男が拍手を送った。
「くくく、まさかね。こんなイレギュラーがあったなんて、オレもこの世界をまだ理解できていないということか?」
 仮面の力は、彼の言うとおり血が固まり、『武器』という形に形成される。それは、刀だったり、銃だったり、はたまた木のバットや木刀、野球やサッカーのボールだったりする。
しかし、所詮は人間であり、体力や血には限度がある。その盲点をついたという訳か。
「この世界に拒否され生まれることすらできなかったオレの抵抗が報われたということになるな。くくく、お前たちはオレがグロリオーサの身体を使うとは思っていなかったようだな。」
「ええ、そうね。アナタの存在がこの世界のもう一つのイレギュラーだったわ。」
「くくく、イレギュラーは、これだけで終わらないけどな。もう一つのイレギュラーが存在する。それは、お前のよく知っている人間に埋め込んでおいたよ。」
 男は、白い魔女に微笑む。アサカと呼ばれている男の顔には、思えない不気味な顔だった。それは、まさに魂を代償に契約する悪魔のようだ。
「人間?」
「そうだ。人間。力もない、ただの人間に力を与えた。イレギュラーがイレギュラーを起こし、そしてまたイレギュラーを生む。この世界は、捨てたものじゃない。オレは、そう思っている。」
 男は、笑った。この世界に反した存在にして、世界に拒否された存在。彼を魔女はこう呼ぶ。旧友と。




 第三話『タイトル未定3』


 世界の崩壊を止める使命。馬鹿馬鹿しいが本当ならどれだけ誇れるだろうか?オレは、人を殺すという正義で示している。
 しかし、人を殺してもいいのだろうか?世界の崩壊と比べれば、安い代償かもしれない。だが、オレは白い仮面を持っているというだけで人を殺している。コレほど、猟奇的な殺人鬼はいないのではないだろうか?
 仮面を所持している者はいずれも殺人的衝動に駆り立てられる。そして、人を殺す。しかも、非常識な殺し方で、だ。その殺人犯を殺しているオレはどうなる?殺人犯を殺す殺人鬼。それは、ヒーローのようなものなのだろうか?それとも狂った(こわれた)殺人鬼でしかないのだろうか?
 オレの葛藤が治まらないまま、オレは次の仮面の所持者を殺そうとしていた。
 それは、オレのよく知っている人物たち。その時気付いたのだ。オレはとっくの昔に狂った(こわれた)のだと。


 春から夏になろうとしていた。梅雨前なのに蒸し暑く。誰もが地球温暖化だな。など、と思っていた。
 そんな、時に事件が起きた。今年に入って二十数個目の事件だ。もう慣れたのか。誰も騒ぎ立てようとせず、自然消滅しそうな噂が立っていた。殺人事件は、学校の近くの隣ビル。オレたちの学校は、山の傾斜を利用して建っているため、屋上からでもそのビルが見下ろせるぐらいの位置にある。
「それでその噂がどうかしたのか?」
「アナタの後輩二人が関わっている可能性があるわ。」
 白い魔女は、髪を靡かせながら町を見下ろしていた。屋上の風は少し強く。屋上は誰も上がろうとしない場所なのだ。
「もしかして、アイツらが行方不明になっているのは、あの事件のせいなのか?」
 少女は、小さく頷く。
 実は、数週間前。伊熊の事件からソイチとソウジが行方不明なのである。何かの事件に巻き込まれたのでは?そう皆が騒ぎ立てた。そのせいでオレたちの中では、最近起きた事件よりも彼らの心配の方が先だった。
「その事件って、あれだろ?確か、ビルの屋上でサラリーマン2人の変死体が見つかったって奴だろ?」
「そう、遺体は両方とも上下半身が分かれて頭蓋骨を割って一直線に喉まで裂けていた。さらにその割れた頭部の脳の部分を喰われていたわ。大量の唾液が付いていたから、間違いはないわ。人間の出来る技術じゃないのは確かね。
 その事件に関わったのがあの二人。おそらく、その壊れた(いか)。殺人鬼に殺されたか、誘拐されたのでしょうね。」
「そう・・・か。」
 いつか、来るとは思っていた。身近な存在が被害にあうことは、しかしこんなにも早いのか?いや、遅いといってもいいかもしれない。オレは、今までに十数人という人間を殺した。そいつらが殺した人間の中に含まれていなかった。この小さな町で起きる事件に関わらない方が変(おか)しいというものだ。オレもトイシも関わっていた。だから、今回は彼らがたまたま関わっただけだ。
「それでどうするの?」
「どうする?殺すさ。オレは、生きるために殺す。それがオレの後輩の仇ならなお更だ。」
 そうだ。これがオレの生き方だ。例え、顔見知りが殺されてもオレは、冷静に殺し続ける。そうでないと自分を保てなくなっていた。




 カメリアから連絡が入ったのは二日後だった。オレは、夜中の二時にケイタイを持ちながら町の中を走っていた。
「それでどっちに行けば?」
『アナタの場所から南にまっすぐよ。建設前のビルの中にいるはず。』
 コイツは、警察なのか?なぜか、指定した場所に高確率で所持者がいる。おそらく、今回もだろう。
 聳え立つビルは、屋上にまるで月が乗っているように見える。そう、まるで月に登ろうとしているようだ。その幻想的な光景を目に焼き付けながら。オレはビルへと向かう。十分もしない内にビルへとついてしまった。


 灰黒い壁のエレベーターに乗り、ゴウン、ゴウン、という音をたてながら屋上へと登っていく。オレの胸は高鳴っていた。それは、最初に仮面をつけた夜を思い出す。乾かない喉。べとり、と張り付く気持ちが悪い汗の感触。満たしても満たされない欲求。殺すことによって、初めて血管に血が通うような感覚。
 ペタリと仮面がオレに張り付く。ベトリとしたタールが喉へばり付く感触はたまらない。息が出来ず、窒息しそうになる。この仮面を早く外せと身体が要求してくる。しかし、欲求がそれをも阻止するのだ。
 チ――――ン。エレベーターが屋上に着いたことを告げる。コイン(ホイ)が(ッ)落ちた(ス)の(ル)は、いきなりだった。エレベーターが縦に真っ二つに裂ける。相手の攻撃(ゲーム)は始まっていた。
 面白い。今までの雑魚より頭がいい。それに生きるという執念に忠実だ。こんな奴が欲しかった。
 オレがエレベーターから飛び降りるとオレの乗っていた部分は一回まで急降下した。目の前の敵を見る。手錠をかけられたように手がくっ付いていた。その手には出刃包丁のようなモノがついている。いや、違う。生えていると言った方が正しい。重なった手は、離したくても離れないのだ。
 なるほど、縦にしか切れないわけだ。奴の手は上下にしか動かせない。伊熊の事件からかなり時間が経つ。もし、あの時からコノ手の状態だったら食事すらできない状態だ。おそらく、例の変死体はコイツの腹が減ったゆえに喰い散らかした後。
 は、確かに狂っ(こわれ)ている。こんな奴にアイツらは殺されたのか?無償に怒りが込み上げて来る。オレの『コロセ』というキワードが思考をめぐり始める。狂ったパソコンは、暴走しようとしていた。
「っ――――」
 指を咬む。血が少量垂れ流れる。そして、その血が爆発し、形を成していく。形成する鉄の塊。紅い色が月明かりに照らされて黒く光る。
 ガリガリ――――。あの音を響かせながら、オレは前に進んだ。この音が相手に恐怖を植え付ける。オレには、最高の音だ。
 だが、今回の状況は違っていた。
「!」
 殺気を感じ、咄嗟に身を屈める。オレの頭の上を刃が通り過ぎる。そのまま、オレは横へ飛ぶ。受身をし、起き上がる。
「ちっ――、そういうことか。」
 それは、まるでハサミだ。クロスした腕に二本の刃が生えている仮面の所持者が立っていた。さっきの男が縦しか切れないなら、こいつは横しか切れない。
 最初から少し変だとは思っていた。縦しか切れない男が何故、頭蓋骨だけを割って中身を喰わずに上半身と下半身を分割したのかと。逃げないように切り離し、その後にゆっくりと真っ二つという訳か。
「・・・・」
「・・・・」
 しかし、変だ。仮面の力は、体力や肉体面を上昇させる力はない。あるのは、力を持たない者に武器を与えるだけにすぎない。
 しかし、目の前にいる奴らはどうだ?身体が変化している。恐らく、通常よりも動き、体力が上がっているように見える。
「・・・・お前たち、その仮面を何処で手に入れた?」
「「・・・・・」」
 しゃべろうとしない。無視している?それとも身体の改良により脳の低下が原因?
 まぁ、いい。オレは、こいつらを殺すだけだ。一歩、二歩、どんどん加速していく。ガリガリ―――という音が更に引きずられて音を増す。鉄の塊が火花を散らしながら、走る。
 思い切り、振る。横一線。それは、コンパスで円を書くようなもの。自分の足を軸に一回転する。
「「・・・・・」」
 無言のまま、それを飛び越える。これは、予想できたことだ。オレは、そのまま踏ん張り振り上げる。
 相手は、避けることが出来ず直撃する・・・・はずだった。だが、奴らは切り裂いたのだ。オレの鉄の塊を真っ二つに切り裂き、その上からハサミの男が突っ込んでくる。しかし、何度しても無駄だ。オレは、屈み避ける。
 だが、今回は違った。いつの間にか目の前に包丁の男が立っていた。
「しまっ――――」
 オレが気付いた時には、包丁がオレの右脚に刺さっていた。走る激痛。オレは、歯を食いしばる。歯茎からは血が流れ出し、声にならない叫びをする。
「―――――――」
 そのまま、相手は包丁を抜き取る。大量の出血。足がオレのいうことを利かなくなる。そのまま、膝をつく。手から離れる。鉄の塊。鈍い音を立てて地面に減り込んだ。
 見上げると包丁の男がオレに向かって振り上げる最中だった。最悪な終わりかただ。二人の後輩の仇も取れず。オレは、世界を守れずに死んでいく。
 死んでいく?死ぬ?
 オレの中で何かが爆発する。それは、一気に肺から口の外へと逆流してくる感覚。その紅い液体が口から吐き出される。尋常じゃない量の液体。それは、人では即死の状態を意味する。
 でも、オレは意識ある。なぜ?それは、死にたくないという欲求?違う。もっと、イレギュラーなものだ。そう、それは予想できない事態。世界は周り360、001度という存在しない円を描く。たった、0,001のイレギュラー。それがオレを生きさしている。
 オレは、立ち上がる。オレの右脚から溢れ出る血の中に手を突っ込む。
「うぐっ―――――――」
 もはや、感覚など無いに等しい。オレは、傷口から紅い色の日本刀を抜き取る。それは、死の感触。熱さと冷たさが混じりあう。
 オレの刀は、包丁野朗の腹に突き刺さった。燃える男。そのまま、オレは刀を横に斬り裂く。内臓と血が大量に溢れ出る。奴はその場に倒れる。
 あとは、ハサミの男だけだ。
「兄さん!!」
「え?」
 ハサミの男は、奴に駆け寄った。


 ・・・・に、いさん?それにアノ声。
「・・・・ソウジなのか?」
「・・・・カルマさん・・・ですか?」
 オレは、仮面を外す。ソウジは、仮面すらも外せない手になっている。それでも声で分かった。コイツは、ソウジでオレが殺したのが・・・・ソイチだ。
「そんな・・・・なんでお前たちが・・・・・」
「すいません。でも、僕たち知ってしまったんです。人を殺す楽しさが。変わっていると言われても構いません。本当に変(おか)しいのですから。」
 オレと同じだ。オレのように葛藤して、そしてただ目的がない殺人を繰り返しているだけだ。
 もう、ソウジたちは死んでいた。
「ねぇ、カルマさん。お願いです。僕を殺してくれませんか?僕もアナタを殺すように努力します。ですから、殺し合いましょうよ?」
 そう、狂っているのだ。もう、オレたちはコノ世界にはいられない。なら、殺しあってコノ世界から消えればいいのだ。
「なぁ、お前に仮面を渡したのは誰だ?」
「名前は、わかりません。でも、綺麗な人でした。」
「・・・・そうか。」
 オレたちは、同時に走り。決着は一瞬で付いた。
「・・・・ありがとうございます。カルマさん。こんな狂った世界から、消してくれて。」
 ソウジのハサミが砕ける。一気に流血し始める。そのまま、力なく彼は倒れた。オレは、たった二人の男を殺した後輩を殺してしまった。
 オレは、何をしているんだ?日本刀をその場に落とす。金属音が静かな夜に響く。溢れる涙。オレは、そのまま崩れ落ちる。




 オレは、すでに世界がどうなろうとどうでもよかった。そうだ、こんな世界が崩壊しようとオレには、関係がない。
 でも、アイツ等に仮面を渡した奴だけは許すことはできない。オレは、カメリアに会いに201教室に行った。
 ガラガラと音を立てながらドアを開ける。
「カメリア。」
「ふぇ?」
 そこにいたのは、カメリアではなく。トイシだった。なぜコイツが?
「どうしたんですか先輩?」
「い、いや、お前こそどうしたんだよ?まだ、朝の五時だぜ?」
「それは先輩も一緒じゃないですか。まぁ、それは置いておいてです。五十嵐双子を探してんですよ。アノ二人が最後に目撃されたのがココらしいので何かあるかと思ったんですけどね。無駄足でした。」
 肩を落とすトイシ。こいつには言っておいた方がいいのではないだろうか?もう、探さなくてもいいと。
「なぁ、トイシ。」
「はい、なんですか?」
「もう・・・探さなくていい。見つかったんだ。オレが見つけた。」
「そう・・・・ですか。はは、本当に何してたんだろ?それで二人は今?」
 安心した顔でオレを見上げる。しかし、オレはそれを突き落とす。
「死んだ。オレが殺した・・・・」
「え・・・・」
 一瞬で彼女の希望をオレが打ち砕いた。
「でも、わかって欲しい。そうしないとお前が死ぬことにな―――――」
 目の前が真っ白になる。腹部が熱い。押えた手を見ると赤黒い液がベットリとついていた。右に倒れていく。倒れた痛みはなかった。目の前の女性が握っていたナイフが見える。オレは・・・・?




 目を開けると教室の天井が見える。当たり前か。ここで倒れたのだからな。
でも、なぜ生きている?そうだ。ソイチとソウジの時もだ。あの時の血の量は尋常じゃない。
「それは、イレギュラーね。」
「カメリア!?」
 オレは、起き上がる。窓辺に座って本を読んでいる少女がいた。
「まさかね。最後のイレギュラーは、アナタの存在だなんてね。人間か。確かにアナタは、力がない。でも、アナタは永遠の命を刻まれたのね。」
「永遠の命?」
「物語の主人公は死なない。それと同じよ。アナタはこの物語の主人公になったみたいね。気に入らないけど、この物語を終わらしてきなさい。気付いているのでしょ?アナタの両親を殺した男も五十嵐兄弟に仮面を渡した男も。」
「ああ、アサカだ。アイツがオレの仇敵だった。出合った時から苛立つこの気持ちはそのせいだったんだ。」
「アイツなら、屋上でアナタを待っているわ。まさに最終決戦ね。物語のフィナーレらしいわ。ふふふ、」
 オレは、教室を出る。コレが最後だ。オレの足並みは怒りに満ちていた。その後ろを楽しそうにカメリアが付いてくる。この物語が終わることがよほど楽しいのだろう。


 屋上のドアを開けるとそこには、華奢体質の男が立っていた。狩石 亜坂。オレが殺す最後の相手だ。
「おやおや、カメリア。それにカルマ君もか。いや、アグニ。勢ぞろいだね。三人の魔女がそろうなんて、まるで最初の世界のようだよ。」
「ふふ、そうね。いつもなら、アナタかアタシが死んでいるものね。」
「そんな事は、どうでもいい。オレはお前を殺すだけだ。」
 仮面を被る。オレの手に握られた日本刀で一気に突き刺す。腹に突き刺す。決着は、一瞬だ。
 だが、ソイツは死んでいなかった。
「・・・・アグニ。少しは、落ち着きなよ。僕たちの出会いは、数では数えられない世界の中で貴重な出会いなんだ。その時間を少しでも分かち合おうよ?」
「五月蝿い。お前は、オレの両親と後輩の仇敵でしかない。」
 一気に刀を引き抜く。そいつの腹部からは、乾いた砂のような血が流れ出す。そして、砂時計の砂が途中でつまるように傷が血で詰まる。
「なら、ゆっくり話しましょうか?」
 アサカは、腹に手を突っ込むと伊熊のような槍が出てくる。その近距離でオレが回避できるわけもなく。右ひざから一気に足の裏まで突き抜ける。そのまま、地面をも突き抜けた。
「ぐぅ、あ―――――――ぅっ」
 オレは、動けないまま刀を構えた。最悪だ。殺すべき相手が目の前にいるのに手出しできない。
「ほら、落ち着いて。ははは、ゆっくり話しましょうよ。」
「ちぃっ!」
「何から話しましょうか?そうですね。この世界をどうやって壊すかについてなんていかがですか?
 それについては、カメリアも聞きたいはずですし。」
「!!」
 いきなり、カメリアに話を向けられ彼女も動揺しているようだ。
「そうね。聞きたいわ。今回は、どんな世界にしようとしているのかしら?」
「カメリア?」
「そうですね。簡単に言いますと仮面が全て壊されるとこの世界はリセットするようです。
 アナタたちが殆んど壊してくれたおかげで仮面は、あと一個。アナタの仮面だけです。」
「な、それじゃあ、オレがやってきたことは・・・」
 ニヤリと笑うアサカ。
「その通り、全ては世界の崩壊を早めたにすぎません。だから、この世界に飽きてしまった。今回は、この世界を壊させてもらいます。それともボクと共にこの世界で、全人類に宣戦布告でもしますか?それも面白いかもしれませんね。
 でも、どうでもいいです。ボクは、次の世界で王になりますから。
 それにこの世界は、本当に面白くない。人間がボクに刃向かおうとしていますしね。」
 オレの膝に刺さっていた槍を引き抜く。噴水のように噴出す血。それは、気持ちの悪い光景だった。止まろうとしない噴水は、地面に落ちていく。オレは、その場に膝をつく。見上げる。奴は、槍を構えてオレを突き刺そうとしているのだろうか?
しかし、奴の目にオレは映っていなかった。そいつの目の先には、トイシ?
「やめろぉぉぉぉ―――――っ」
 オレの叫びは届かず、アサカはトイシに向かって槍が放つ。そのまま、弧を描いてトイシに突き刺さる。壁にぶつかり串刺しになるトイシ。その手から落ちるナイフ。血を吸収していくように槍がどんどん紅くなっていく。オレの頬を涙が流れる。
 そんな、トイシまでも・・・・。




 足の痛みはもう無かった。オレの膝から突き出した刀の柄を両手で握り、二本の日本刀を抜く。そして、力強く踏み込む、
アサカは、腹部から槍を取り出す。オレの鮮明な感覚は、その動きを捉えた。相手の槍がオレの左肩を狙って一直線に向かってくる。オレは、それを切り
落として奴の首を横に切り落とす。
 だが、奴も馬鹿ではない。身体を反らして、紙一重で避ける。奴の顔色が変わったのが分かった。
「本当に落ち着きがないのだね?まだ、話が終わっていないのに。なぜ、アグニが生まれたか知りたくないのかい?」
「そんなことは、どうでもいいんだよ。」
 走る。縦に振り下ろす。それを弾き返し、敵は一直線に突く。体を捻る。頬を掠る。槍を刀で切り落とす。
「はは、――――」
 楽しんでいた。オレは、全てを忘れこの殺し合い(ゲーム)を楽しんでいた。いかれた思考は、これをゲームと呼び。刃が擦れ、掠れるのを楽しんだ。
「ふふ、まるで子供みたい・・・」カメリアは、本を眺めそう呟く。
 確かにそうだ。これは、子供のちゃんばら(殺し合い)、だ。鍔迫り合い、お互いの首を飛ばそうと遊んでいる。
「やぁぁぁぁ!」
 奴の右腕を吹き飛ばす。砂のような血が噴水のように溢れ出す。そして、そのまま傷口が砂で詰まる。
「これで3ポイントか?」
「はは、まさか。1ポイントもないよ。」
 槍がオレの腹に突き刺さる。痛みはない。腹に手を突っ込み、中からナイフを取り出す。
「へぇ、そんなことも――――」
 投げる。奴の片耳を抉り取る。さらに振り上げる刀。それを避けられる。
 二、三歩、後ろに飛び下がる。
「「は、――――は、――――」」
 お互い、体力すらも気にせず殺しあっていた。体は既にボロボロで奴に関しては、パーツがいくつか足りない状態だ。
「さて、遊びもこれで最後だ。ケリをつけてやる。」右手の刀を捨てる。いや、違う。右手が何故か無いのだ。刀は、自然に地面に落ちる。
「え、なんなのそれは?そんな物語ないわよ?」カメリアが何かを呟く。
 しかし、それはオレの耳には届いていなかった。アサカは、少し驚く。だが、微笑み。楽しそうに片腕だけの体で槍を構えた。
 目の前が霞んでいく。いや、アサカだけしか捕らえられなくなっていく。奴以外の景色が白く消えていく。
 そうか、これがこの世界の終わりか。それは、消しゴムで消すようにノートが真っ白になっていく。
 気付くと奴の体は、パーツのある元の体に戻っている。オレも傷がなくなっている。体の自由がきく。お互い、元のままだ。いや、まったく別のモノになってしまっている。
「はぁ、どうやらお互いの力がなくなったようですね。アナタの仮面の力もボクの力も。」
「ああ、そのようだ。アサカ。いや、グロリオーサ。」
 オレの口が勝手に動いている。いや、体もまるでオレのモノじゃなくなっている。いや、そうじゃない。オレの身体じゃない。
金色の髪、隻腕に隻眼の緋色の瞳。黒い、コートを着た、その身体は赤い魔女アグニが立っている。オレは、その後ろで見ているような感覚だった。まるで魂が抜けて、宙に浮いているようだ。
 そして、目の前にいた男も変わっていた。黒い長髪、紅い眼の少女。金色の鎧にその眼と同じ、紅い色の槍を握っていた。あれが、グロリオーサ。
「どうやら、世界(ものがたり)は次を望んでいるようね。」カメリアが呟く。
その手には、ページが真っ白の本を持っていた。カメリアがいつも楽しそうに読んでいる本。あれがこの世界そのもの。
「でも、最後に決着をつけようじゃないか?グロリオーサ?」
「くくく、コレではまるで最初の世界のようじゃないか?いいだろう。今回はワシが勝つ。」
「ほざけ!今回もワタシが勝つ。」
 微笑ながら紅い魔女は紅い刃の刀を構え、飛んだ。縦に一閃。それを黒い魔女は、スラリとよける。そのまま、槍がしなり紅い魔女に直撃する。
 はずだった。紅い魔女はそのまま片腕だけで捻り上げる。
 一気に引き裂く黒い魔女の身体。左脇から一直線に右肩を斬り裂いたのだ。
「では、次の世界でまた会おうぞ?」
 ニヤリと笑い。黒い魔女は倒れる。




 気付くと元の世界に戻っていた。オレの身体。目の前はアサカの身体がバラバラのパーツに別れていた。それは、まさに肉片といってもいいかもしれない。
「はぁ、――――はぁ、――――」
 さっきまでとは違う。一瞬見えたビジョン。はは、今までの中で一番ありえない話だ。刀を杖代わりにして立つ。
「カメリア?」
 オレの声は届かず、彼女は唖然として動かない。近寄って肩を揺さぶる。
「え、ああ、終わったの?」
「ああ、これでこの世界は救われたんだよな?」
「そ、そうね。初めてだからよく分からないわ。」
 そうか。彼女にとって初めてのことだから喜んでいいのかどうか理解できないのだろう。
「それで、さ。頼みがあるんだ?」
「へ?ええ、何かしら?」
「オレを殺して欲しい。」
「ふぇ?!?」
 変な声で返答し、さらに唖然とするカメリア。それはそうか。オレが望むのは、変かもしれない。何せ今までは、自分が生きたいがために人間を殺してきたのだ。そして、世界の崩壊を止めたというのに自分を殺せ、などと。
「・・・・そう、ならアナタの願いを叶えてあげる。」
 そういって、コートのポケットからライターを取り出す。ジッポライターだ。なんでそんなモノを持っているかとか、変わった趣味だな。とか言うのは、やめておこう。
 彼女は、本に火をつける。本が手から離れ、地面に落ちる。更に火が本を包んでいく。
「次の世界で会いましょう?」
「それは、オレに?アグニに?」
「アグニのほうよ。アナタは、この世界の主人公。他の世界には、出られない存在。ハッピーエンドは、初めてだったけど、なかなか面白かったわ。」
「じゃあ、次の世界(ものがたり)の主人公によろしく、な?」
 彼女は頷き、微笑んだ。それが、オレが見た最後の景色だった。
 その時、知ったのだ。オレの両親を殺したのも、オレの後輩たちを殺したのも、この世界(ものがたり)だということを。オレは、この世界をハッピーエンドにして、自らの願いで白紙に戻したのだ。世界は、焔に包まれた。




 オワリ


 オレがこの町に引っ越してきたのは、数年前になる。両親の仕事のせいである。まぁ、孤児院にいたオレを引き取ってくれた親の頼みは断れず、しかも離れたくないなんて、親馬鹿のせいでもある。
 まぁ、高校三年の自分にはそんなことは、関係なく。卒業できるか。ということが心配でならない。この町の高校は、特に有名でもなければ、優秀でもなく、世間一般的な高校でしかない。その高校を平均的な成績で今日に至っているのである。
 オレ、九霧 駆馬(くぎり かるま)は今日も欠伸混じりで帰路についていた。


学校から帰宅すると何故か先客がいた。
「トイシ。お前、どうやって入った?」
「へ?玄関からですよ?オバ様から合鍵をくれました。」
 まただ、また鍵をコイツに渡しやがった。
彼女は、宇野 樋矢(うの といし)。今年から、オレの通っている高校に入学してくる馬鹿だ。いや、頭はそれなりにいいのだが何を考えているのか高校のランクを五つほど落として入学した。まぁ、頭の出来がいい人間の考えていることは一般人のオレには理解が出来ないのも当たり前なのだろう。
「それより、先輩。見てください。これぞ、ツインポニーテール!
 ツインテールとポニーテールの二つの萌要素を合わせた最強の髪型ですよ!!」
「いや、知らないよ。あと、オレは萌要素とか理解できないから。」
 やはり、鬼才の頭脳は一般人のオレにはついていけそうにない。普通にポニーテールを上下に一つずつ作ったようにしか見えない。
「は、駄目ですね。これだから、一般人は。」
「あ~、もういいよ。それよりお前の家の夕飯、残ってないか?今日は、母さんが作り置きもしてないから、コンビニになんだよ。」
 コンビニより、人の手で作られた料理を選ぶのがオレである。それが他人の料理でもだ。
「そうですね。何か、持ってきましょうか?確か今日は、焼肉だったので野菜だけなら持って来てもいいですよ?」
「うわっ、オレはベジタリアンじゃねぇよ。持ってくるなら肉も持って来てくれよ。」
「却下です。肉の無い焼肉を食べていればいいのです。」
 あ、何か腹が立ってきた。いや、待て。野菜とはいえ飯だ。しかもタダだ。
「よし、その話乗った。」
「というか、私の家で食べたらいいじゃないですか?」
「あ、それもそうだな。」
 ということでオレは、急遽トイシの家に行くことになったのだ。


 トイシの家に行くと何故か五十嵐兄弟がいた。
「なぜ、お前が来る?」
 舌打ちまでしてくれる五十嵐 総一郎(いがらし そういちろう)。オレの後輩である。
「に、兄さん。そんなこと言っちゃ駄目ですよ。カルマさんも生きているんだし。ね?」
 オレをペットか何かと勘違いしていらっしゃる五十嵐 双次(いがらし そうじ)。こいつが一番腹黒い。
「あははは、五十嵐兄弟も明日が土曜日ということで遊びに来たのですよ。ほら、来週がアタシの入学式じゃないですか?」
「あ、そうだったな。
 でも、今はどうでもいい。飯を食わせろ。」
「はぁ~、どうでもいいとか言わないで欲しいですよ。これだから先輩は・・・」
 タメ息をつきながら、皿に具を入れてくれるトイシ。後輩に恵まれているな、オレは。
「・・・・却下。前言撤回。この野朗、キャベツオンリーじゃねーか!」
「五月蝿いのです。ベジタリアンになりやがれ。」
 こうして、後輩たちとの夕食会が始まったのだった。


 こんな小さな町に事件などなく。今日も明日も平和なのだろう。




 容疑者 九霧 駆馬『くぎり かるま』(18)
4年前の19○○年 ○○月 ○○日 (金)
養子先の両親にあたる2人の夫婦を殺害。当時、14という年齢により容疑
はかけられなかった。
 その後、20○○年 4月 ○○日 (月)
深夜1時 37分 コンビニエンス‐ストオアの前にたむろしていた大学生3
人を殺害。殺害に使われた凶器はまだ見つかってはいない。その後、容疑者は
現場に駆けつけた派出所の警官を計15人殺害。その後、壁に穴を開けてB地
区からF4地区まで逃亡。
数日後の同年 4月 ○○日 (木) 推定時刻18時30分~19時15分。
容疑者の通っている高校の『図書室』と呼ばれている201教室で河合 修二『かわい しゅうじ』(18)を[金属バット]で殺害したと思われる。
 当時、容疑者の足にナイフが刺さっており、強盗に刺され、逃亡したと証言した。しかし、自作自演の可能性が高い。被害者の遺体は、半年後の10月同日にこの教室の床下で発見される。
同年 4月 ○○日 (月) 推定時刻17時57分~18時24分。
 校舎の屋上で爆発音があり、駆けつけた生徒および教師たちが地面に減り込んだ伊熊 一夫『いぐま かずお』(39)を発見。容疑者と被害者が屋上に上がるのを見たという生徒が数人いたため、容疑者が何らかの形で関わっていると思われる。
 当時は、すでに帰宅していたということで容疑は掛けられなかった。
 同年 5月 ○○日 (火) ~ 5月 ○○日 (木) までの間に起こった16人連続殺害事件にも関わっている可能性が高い。現場で度々、容疑者が目撃されている。
 同年 5月 ○○日 (金) 時間に関しては、不明。日時も推定である。
数日前に起きたサラリーマン変死事件の容疑上にいた二人の兄弟を日本刀で殺害した。
 同年 5月 翌日 (土) 時間に関しては、不明。日時も推定である。
後輩である宇野 樋矢『うの といし』を槍で殺害。屋上に出る扉に串刺しの状態で吊るしていた。
 被害者、容疑者以外の血痕が現場で見つかったが詳細不明。容疑者の他に第三者がいた可能性もある。
 同日 7時59分。教師A(男性)が日本刀を振り回している容疑者と被害者を屋上で発見。通報した。
 同日 11時04分 負傷者3人を出し、十人がかりで取り押さえた。
 翌年 7月 ○○日 獄中で完全に発狂。
 同年 9月 ○○日 容疑者が消失。血文字で壁や床に『カメリア』、『魔女』と書いていた。『カメリア』は恐らくラテン語の「camellia」『ツバキ』を意味するものと思われるが意味不明。魔女に関しても同じである。
 同年 12月 30日 容疑者が入っていた獄中にて腐乱した容疑者の両手足が発見された。
 当時は、別の受刑者が使用していたため何故このようなことになったのかは不明である。腐乱という点で放置していたとも考えられたが刑務所はこれを否定した。
 受刑者もそれは有り得ないと証言している。
 その後、容疑者の胴体を捜索するが見つかってはいない。


 以上のことが『カメリア事件』、通称『C』の内容である。




 I’m still alive.




 ホコリ臭い図書館の中で一人の少女が鼻歌混じりに本を読んでいた。見えない天井、見えない壁の中を無限という数の本が宙に浮いて、独りでにペンを走らせているという奇怪な光景をよそに俺は小さなテーブルに2,3冊の本を重ねて、その身長に反する大きすぎる椅子に腰掛けて、本を読んでいる少女に近づいた。
パタンと本を閉じる。
やっと終わったか。俺は、彼女に話しかける。また、新しい本に手をつけられては困る。
「カメリア。もういいか?」
「あら、いつからそこにいたの?」
「十分ぐらいだ。」
 実際には数時間前からいたのだが。まぁ、いいだろう。
「それで?ここまで来たのだから何かようなのでしょ?また、面白い本を持ってきてくれたとか?」魔女は目を輝かせる。
「いいや、今日は持って来てない。前持ってきた奴でも読んでろよ。」
「あ~あれ、燃やしちゃった。」
 ひでぇ、俺がせっかく買ってきたのに。
ここの本が増えないのは、彼女が定期的に燃やしているからだろう。もちろん、減らないのは俺が買ってきているからだ。
「今回は面白かっただろ?」
「そうね。ラストで主人公が運命(ものがたり)を変えたのは面白かったけど、アタシには向いていないかもしれないわ。
 ワタシが求めるのは、皆で笑えるハッピーエンドですもの。今回も主人公は、悪魔に食べられてオワリだなんて・・・。」
 確かにそうだろう。最後の胴体がアルバイト先の社長部屋のオブジェクトになっていたというのは、バッドエンドでしかない。彼女の読む本は、どれもいい死に方をしていない人間ばかりを呼んでいる。確かに何も起きない何も無い人間の本を読んでも仕方ないかもしれないが。
「なら、何事もなくハッピーエンドで終わる本を読めばいいじゃないか?」
「それは面白くないわ。足掻いて、足掻いて勝ち取るのが好きなのよ。」
確かに何も起きない何も無い人間の本を読んでも仕方ないかもしれないが。
「次の本が読みたいわね。」
 その時、一冊の本が宙から地面に落ちる。
ここにある本は、人間の人生が書かれた本。ペンのインクがその人物の生涯の数、つまりは寿命である。その本が落ちたということは、その人物が死んだか、殺されたということだ。なんて、タイミングがいい。
「やった!」
 不気味なことを言って、魔女は本の所まで駆け寄る。その本を拾い上げて、コチラに返ってくる。まるで子供のようなのだが、相手が魔女だけあってそれだけは無いと身体が反応してくれる。
「今度は、どんな奴の物語なんだ?」
「さぁね。でも、このページ数だと面白いに決まっているわ。人間が足掻いた人生は美しいもの。今回は、ハッピーエンドでありますように。」
 白い魔女カメリアは祈り、少女のような笑みを浮かべて本を読み始める。
「はぁ、今日は話があってきたのだが・・・・」
 これでは、あと十数時間は彼女に声は届かないだろう。俺は、諦めて自分の部屋に戻ることにした。図書館の中で唯一自然なのは、ドアぐらいだろう。
魔女が鼻歌混じりで世界(ものがたり)を読み始める。
さて、今回の物語は、何日で飽きられるのだろうか?旧友は、知る。世界(ものがたり)を崩壊させるのは、一人の魔女の飽きであると。


 自分の部屋に戻ると何故か二人の魔女がいた。紅い魔女アグニと黒い魔女グロリオーサである。
「チェックメイト――――」
 しかもチェスをして遊んでいる。なぜ、俺の部屋でする?自分たちの部屋があるだろう?
「お帰り、お邪魔している。」
「同じく~。まぁ、楽にいたせ。」
 この二人は何がしたいのか?俺の腹が煮えたぎる。
「なんのようだよ?俺の邪魔をしやがって。」
「気にするな。ワタシは、ここが好きなのだ。」
「同感。ワシもここに当分いることにする。」
 あれですか?前の世界(ものがたり)に勝手に参加して、話を変えたのを根に持っているのか?確かにアレは少しやりすぎた。物語の軸を完全に歪ませてしまったからな。
「はぁ、わかったよ。」
 タメ息をついて、オレはカメリアの新しい本(せかい)を買いにいくのであった。
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テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

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えらいとこ見られた
こりゃあもう 百年目 じゃと思いました

あと、このブログは敬称略ですので悪しからず。

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